名古屋議定書に係る国内措置のあり方

春 ヲ 呼 プ

2014年04月07日 09:37


Ⅰ 名古屋議定書について

 議定書は、遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること(遺伝資源の取得の適当な機会の提供、関連のある技術の適当な移転及び適当な資金供与により配分することを含む。)並びにこれによって生物の多様性の保全及びその構成要素の持続可能な利用に貢献することを目的としている(第1条)。
 ABS(遺伝資源の取得の機会の提供や利益の配分(Access and Benefit-Sharing。以下「ABS」という。))について規定している に関しては、条約において、①各国は自国の天然資源に対して主権的権利を有するものと認められ、遺伝資源の取得の機会につき定める権限は、その国の国内法令に従うこと(条約第15 条1)、②遺伝資源の取得の機会が与えられるためには、当該遺伝資源の提供国である締約国が別段の決定を行う場合を除き、当該締約国の事前の情報に基づく同意(以下「PIC」という。)を必要とすること(条約第15 条5)、③遺伝資源の利用から生ずる利益の配分は、相互に合意する条件(以下「MAT」という。)で行うこと(条約第15 条7)が規定されている。


Ⅱ 名古屋議定書の主要規定

1.遺伝資源の提供国としての措置に係る規定(第6条、第7条及び第8条)
 ① 遺伝資源の取得の機会の提供(第6条)
 ② 遺伝資源に関連する伝統的な知識の取得の機会の提供(第7条)
 ③ 特別の考慮事項(第8条)

2.遺伝資源の利用国としての措置に係る規定(第15 条、第16 条及び第17 条)
 ① ABS 法令等の遵守(第15 条)
 ② 遺伝資源に関連する伝統的な知識に係るABS 法令等の遵守(第16 条)
 ③ 遺伝資源の利用の監視(monitoring)(第17 条)

3.遺伝資源の提供国及び利用国の双方としての対応に係る規定
 ① ABS クリアリングハウス及び情報の共有(第14 条)
 締約国は、秘密の情報の保護を妨げることなく、議定書によって必要とされている情報及び締約国会議の決定により必要とされる情報をABS クリアリングハウスに提供することが規定されている(第14 条2)。これらの情報には以下を含むとされている。
  ア ABS に関する立法上、行政上及び政策上の措置
  イ 国内の中央連絡先及び権限ある当局に関する情報
  ウ PIC を与えるとの決定及びMAT の設定を証明するものとして発給された許可証等
 ② MAT の遵守(第18 条)
 締約国は、遺伝資源等の提供者及び利用者に対して、紛争解決を対象とする規定をMATに含めることを奨励すること(第18条1)、MATから生ずる紛争の事案について、自国の法制度の下で訴訟を提起することができることを確保すること(第18条2)が規定されている。

4.用語の定義(第2条)
 上記1、2及び3に記述した各条文に基づく措置の対象となる遺伝資源や遺伝資源の利用の定義は以下のように規定されている。
 ① 遺伝資源(条約第2条の用語の定義を適用)
  「遺伝資源」とは、現実の又は潜在的な価値を有する遺伝素材をいう。
  「遺伝素材」とは、遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材をいう。
 ② 遺伝資源の利用
  「遺伝資源の利用」とは、遺伝資源の遺伝的又は生化学的な構成に関する研究及び開発を行うこと(条約第二条に定義するバイオテクノロジーを用いて行うものを含む。)をいう。


Ⅲ 名古屋議定書に対応する国内措置のあり方に係る意見のまとめ

(1)基本的な考え方
 ① 遺伝資源等の適正な利用の促進への貢献
 遵守措置は、提供国のABS 法令等を遵守して取得された遺伝資源等が日本において利用されるようにするための機能をもち、利用者が安心して遺伝資源を利用できることとなり、利用の促進に貢献し、また、利用者による提供国のABS 法令等の遵守のための自主的な取組を後押しするものとなるべきである。

 ② 国内関係者からの支持及び国際社会への説明責任
 遵守措置は、規制的なものとなった場合には国内の学術研究活動や産業活動に負の影響を及ぼす可能性があることを考慮し、日本の利用者が諸外国との競争上不利な立場に置かれる等学術研究活動や産業活動を妨げることのない、遺伝資源の利用を促進するためのものとすべきである。同時に、日本の利用者が提供国からの信頼を得られるものであって、国内にも海外にもその妥当性を説明できるものとなる必要がある。

 ③ 明確、簡素かつ実際的
 遵守措置は、遺伝資源のすべての利用者が対応できるよう、明確かつ確実であって、実施にあたって過度な負担のない簡素なものであり、各々の学術研究分野や産業分野におけるこれまでの利用慣行から可能な限り乖離しない程度に実際的なものとなるべきである。また、施行後一定期間経過後に、運用の実態を踏まえて遵守措置の内容に係る必要な変更を行うことについて検討するべきである。

 ④ 遺伝資源の国際的な流通への配慮
 日本とEU 等の主要先進国等の利用者間での遺伝資源の流通が今後も円滑に行われるよう、日本の遵守措置とそれらの国の遵守措置の可能かつ適切な範囲内でのルールの共通性について、問題点等も考慮した上で検討するべきである。

 ⑤ 普及啓発と支援措置の重要性
 遵守措置を実施する前提として、その普及啓発を行う必要がある。また、学術機関や企業等の遺伝資源等の利用者が円滑に議定書を実施できるように、遵守措置と併せて車の両輪として、政府による利用者に対する支援措置をその周知の上で実施する必要がある。


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